強皮症とは

全身性強皮症の病因

強皮症の病因を理解するための3つの異常

全身性強皮症(以下、単に強皮症とします)の病因は複雑であり、はっきりとはわかっていません。しかし、研究の進歩によって3つの異常が重要であることが明らかとなりました。その3つの異常とは①自己免疫、②線維化、③血管障害です。それぞれの異常についてはだんだんわかってきましたが、まだこの3つの異常がお互いにどの様に影響し合って強皮症という病気になるのかがわかっていません。強皮症の病因をジグソー・パズルに例えると、一つ一つのピースはだんだん集まってきましたが、まだいくつかの重要なピースが欠けていて、全体のジグソー・パズルが完成していないといえると思います。以下にそれぞれの異常について説明します。

第一の異常:自己免疫とは?

強皮症は自己免疫疾患といわれています。では自己免疫とは何でしょうか。例えば、健常人が細菌などに感染すると、抗体という、いわば細菌を破壊するミサイルが作られて、それによって感染が治癒します。ところが、強皮症ではどういうわけか細菌ではなく、自分に対して抗体(自己抗体といいます)が作られて、自分の体を壊してしまいます。これが自己免疫です。強皮症の一部は自己免疫でおきると考えられているのです。強皮症でみられる自己抗体 自己免疫の結果、強皮症では様々な自己抗体がみられます。代表的なものは、抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ I抗体です。抗セントロメア抗体は比較的軽症の患者さんに検出され、一方、抗トポイソメラーゼ I抗体は典型的な強皮症患者さんに陽性になることが多いことが知られています。このように、強皮症では自己抗体の種類が強皮症の病気の重さと関連しています。さらに、これらの自己抗体は症状が起こる前に血液中に現れてくると考えられています。従って、自己抗体は強皮症の病気の成り立ちに深く関わっていることは疑いありません。しかし、この自己抗体が実際にどのようにして強皮症の症状を引き起こしているかについては、実はまだよくわかっていないのです。

第二の異常:線維化とは?

傷ができた時、その傷痕が少し盛り上がって治ったことはありませんか。この盛り上がっているのが線維化です。この線維化が皮膚や内臓に起こるのが強皮症の本態です。線維化を起こすと皮膚は硬くなります。その皮膚を顕微鏡で拡大してみると、皮膚の真皮と皮下脂肪組織という場所に膠原線維(コラーゲンともいいます)が著しく増えていることがわかります。膠原線維は線維芽細胞という細胞から作られます。強皮症はこの線維芽細胞が正常の線維芽細胞より、活発に膠原線維を作っており、その結果皮膚に過剰な膠原線維がたまって、線維化がおきるのです。何故強皮症では線維芽細胞が活発に働いているのかはわかりません。しかし、線維芽細胞自体に異常があるのではなく、むしろ線維芽細胞を活発にする物質が強皮症では増えていると考えられています。線維化はどのように起こるのでしょうか? 強皮症では血液中のリンパ球という細胞も線維芽細胞と同じように活発に働いています。リンパ球とは細菌やウイルスに感染したときに、これを殺菌するために働く細胞です。前に述べた抗体はこのリンパ球から作られます。このリンパ球が血液中から皮膚に移動し、そこで様々な細胞成長因子やサイトカインと呼ばれる物質を産生することが線維化の始まりと考えられています。これらの物質が線維芽細胞を刺激し、その結果線維芽細胞が過剰な膠原線維を産生し、線維化が起こるといわれています。線維化を起こす細胞成長因子やサイトカイン 強皮症で線維化を起こすと考えられている物質はいろいろありますが、どれが一番重要なのかは結論は出ていません。むしろ、様々な細胞成長因子やサイトカインが複雑に作用し合って線維化を作ると考えられています。

第三の異常:血管障害とは?

強皮症ではレイノー症状がその80%以上の患者さんでみられます。レイノー症状とは寒冷刺激によって手指が白や紫に突然変化する症状です。レイノー症状は指の血管が収縮して、血管の内腔が狭くなった結果、血流が低下することによって生じます。また、前に述べた線維化が血管にも起こって、血管は硬くなり、広がりにくくなって、血流低下を来す一因となります。指先の血流が極端に低下すると、潰瘍ができます。この血管の硬化と血流低下は皮膚だけではなく、内臓にも起こります。例えば肺の血管に起こると肺高血圧症となり、腎臓の血管に起こると強皮症腎クリーゼと呼ばれる症状となります。また、血流低下を直接表すものではありませんが、指の爪のあま皮の部分に点状の黒い出血点(爪上皮出血点)が強皮症の患者さんでしばしばみられます。これも血管障害を反映する症状と考えられています。何故強皮症でこのような血管障害が起こるのかについてはまだよくわかっていません。


強皮症Q&A

強皮症とは

強皮症には全身性強皮症と限局性強皮症があり、両者は全く異なる疾患ですので、この区別がまず重要です。限局性強皮症は皮膚のみの病気で、内臓を侵さず、心配のない病気です。一方、全身性強皮症は皮膚や内臓が硬くなる変化(硬化あるいは線維化といいます)が特徴です。限局性強皮症の患者さんが、医者から単に「強皮症」とだけいわれて、全身性強皮症と間違えて不必要な心配をしていることがしばしばありますので注意が必要です。次に大切な点は全身性強皮症の中でも病気の進行や内臓病変を起こす頻度は患者さんによって大きく異なるということです。患者さんによっては病気はほとんど進行しないことから、従来欧米で使われていた「進行性」全身性硬化症という病名の「進行性」という部分はこの病気には適切でないことから、今は使われなくなりました。このように全身性強皮症の中でもいろいろなタイプ(病型といいます)があることがわかってきたことから、国際的には全身性強皮症を大きく2つに分ける病型分類が広く用いられています。つまり、典型的な症状を示す「びまん型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局型全身性強皮症」に分けられています。前者は発症より5-6年以内は進行することが多く、後者の軽症型では進行はほとんどないか、あるいは緩徐です。この病型分類のどちらに当てはまるかによって、その後の病気の経過や内臓病変の合併についておおよそ推測ができるようになりました。

この病気の患者さんはどのくらいいるのですか

本邦での全身性強皮症患者は30,000人以上いると推定されています。全身性強皮症はレイノー症状で発症することが多いのですが、その中には皮膚硬化がゆっくりとしか進行しない患者さんも多く、病気に気が付かなかったり、医療機関を受診しても診断されなかったりすることもしばしばあり、このような軽症型の全身性強皮症を含めると患者数はさらに多いのではないかと推定されています。

この病気はどのような人に多いのですか

男女比は1:9であり、30〜50歳代の女性に多く見られます。ごく稀に小児期に発症することもあります。また、70歳以降の高齢者にも発症することもあります。

この病気の原因はわかっているのですか

全身性強皮症の病因は複雑であり、はっきりとはわかっていません。しかし、研究の進歩によって3つの異常が重要であることが明らかとなりました。その3つの異常とは①自己抗体産生(後述します)、②線維化(線維芽細胞の活性化によって生じます)、③血管障害(その結果、レイノー症状や指先の潰瘍などが生じます)です。それぞれの異常についてはだんだんわかってきましたが、まだこの3つの異常がお互いにどの様に影響し合って全身性強皮症という病気になるのかがわかっていません。全身性強皮症の病因をジグソー・パズルに例えると、一つ一つのピースはだんだん集まってきましたが、まだいくつかの重要なピースが欠けていて、全体のジグソー・パズルが完成していない状態といえると思います。

この病気は遺伝するのですか

全身性強皮症はいわゆる遺伝病ではなく、遺伝はしません。しかし、全身性強皮症にかかりやすいかどうかを決定する遺伝子(疾患感受性遺伝子といいます)は存在すると考えられています。これら疾患感受性遺伝子は一個ではなく、多数存在し、一つだけをもっていても全身性強皮症にはなりません。多数ある疾患感受性遺伝子のセットを一人の人が、たまたまもっていると全身性強皮症になりやすいと考えられますが、それでもまだ不十分です。これら疾患感受性遺伝子に加えて、生まれてからの環境なども全身性強皮症の発症に複雑に関与すると考えられています。


この病気ではどのような症状がおきますか

①レイノー症状:冷たいものに触れると手指が蒼白〜紫色になる症状で、冬に多くみられ、初発症状として最も多いものです。治療としては保温が大切です。②皮膚硬化:皮膚硬化は手指の腫れぼったい感じからはじまります。人によっては手のこわばりを伴います。また、今まで入っていた指輪が入らなくなったことで気づかれることもあります。典型的な症状を示す患者さんでは、その後、手背、前腕、上腕、躯幹と体の中心部分に皮膚硬化が進むことがあります。注意してほしい点は、すべての患者さんで皮膚硬化が躯幹まで進行するわけではないということです。つまり、前述した「びまん型全身性強皮症」では時に躯幹まで硬化が進行しますが、「限局型全身性強皮症」では躯幹の硬化はきわめてまれです。③他の皮膚症状:爪上皮(爪のあま皮)の黒い出血点、指先の少しへこんだ傷痕、指先や関節背面の潰瘍、毛細血管拡張、皮膚の石灰沈着、皮膚の色が黒くなったり、逆に黒くなった皮膚の一部が白くなったりする色素異常などがみられます。特に、指先や関節背面に潰瘍ができたときには、自分で処置をせず、主治医に処置してもらうことが大切です。④肺線維症:ひどくなると空咳や息苦しさが生じ、酸素吸入を必要とすることもあります。前述した「びまん型全身性強皮症」で比較的多く見られる合併症です。肺線維症があると細菌が感染しやすくなり、肺炎を起こしやすいので注意が必要です。痰が増えたり、発熱が生じたら直ぐに主治医に連絡して下さい。⑤強皮症腎クリーゼ:腎臓の血管に障害が起こり、その結果高血圧が生じるものです。急激な血圧上昇とともに、頭痛、吐き気が生じます。ACE阻害薬という特効薬による早期治療が可能ですので、このような症状が起きたときには、直ぐに主治医に連絡して下さい。⑥逆流性食道炎:食道下部が硬くなり、その結果胃酸が食道に逆流して起こるもので、症状としては胸焼け、胸のつかえ、逆流感などが生じます。現在は症状を抑える治療法が開発されていますので、このような症状がでたときには主治医に相談して下さい。⑦その他の症状:手指の屈曲拘縮、関節痛、便秘、下痢などが起こることがあります。


この病気ではどのような治療法がありますか

現在のところ、全身性強皮症を完全によくする薬剤はありません。しかし、あきらめないで下さい。最近の進歩によって、ある程度の効果を期待できる治療法は開発されてきました。特に発症から5〜6年以内の「びまん型全身性強皮症」では治療の効果が最も期待できます。代表的な治療法として、①ステロイド少量内服(皮膚硬化に対して)、②シクロホスファミド(肺線維症に対して)、③プロトンポンプ阻害剤(逆流性食道炎に対して)、④プロスタサイクリン(血管病変に対して)、⑤ACE阻害剤(強皮症腎クリーゼに対して)などが挙げられます。一方、前述した「限局型全身性強皮症」では皮膚硬化の範囲も狭く、重い内臓病変もないため、症状を抑える治療法(対症療法)が主体となります。現在、研究班では全国の患者さんができるだけ早く、一番効果が期待できる治療が受けられるように、治療指針の確立を急いでいます。


この病気はどのような経過をたどるのですか

全身性強皮症の経過を予測するとき、典型的な症状を示す「びまん型全身性強皮症」と比較的軽症型の「限局型全身性強皮症」が役に立ちます。「びまん型全身性強皮症」では発症5〜6年以内に皮膚硬化の進行および内臓病変が出現してきます。不思議なことですが、発症5〜6年を過ぎると、皮膚は徐々に柔らかくなってきます。つまり、皮膚硬化は自然に良くなるのです。しかし、内臓病変は元にはもどりません。ですから、発症5〜6年以内で、できるだけ早期に治療を開始して、内臓病変の合併や進行をできるだけ抑えることが極めて重要なのです。一方、「限局型全身性強皮症」ではその皮膚硬化の進行はないか、あってもごくゆっくりです。また、例外を除いて重篤な内臓病変を合併することはありませんので、生命に関して心配する必要はありません。では、この「びまん型全身性強皮症」と「限局型全身性強皮症」を区別する最も大切な目印は何でしょうか?それは自己抗体の種類です。自己抗体とは自分の体に向けられた抗体、いわばミサイルのようなものであり、これによって自分の体が傷んで、硬化が生じると想像されています。全身性強皮症では抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体、抗U1RNP抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体などが検出されます。抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体や抗RNAポリメラーゼ抗体は「びまん型全身性強強皮症」の目印であり、一方、抗セントロメア抗体は「限局型全身性強皮症」の目印となります。


診断と検査

全身性強皮症の初発症状は?

 全身性強皮症の患者さんの半数以上はレイノー症状が強皮症として最初の症状、つまり初発症状となります。レイノー症状は後で詳しく述べますが、冷たい物を触ったりしたときに指が突然、真っ白になる症状です。患者さんによっては白くはならずに、紫色になることもあります。暖めると元に戻ります。症状の比較的軽い全身性強皮症の患者さんでは、皮膚硬化がはっきりとわかるまでにレイノー症状だけが十年以上も続くことがあります。皮膚硬化の進行の早い典型的な全身性強皮症の患者さんでは、ときに皮膚硬化が初発症状となり、レイノー症状は遅れてでてくることもあります。レイノー症状は全身性強皮症だけではなく、他の膠原病の初発症状となることもありますから、レイノー症状があるからといって、すぐ全身性強皮症というわけではありません。また、健康な人でも数パーセントでレイノー症状をもっているといわれており、レイノー症状があるからといって、すぐに膠原病というわけでもないことに注意して下さい。 レイノー症状や皮膚硬化の他には、指のむくみ・腫れ、手のこわばり、関節痛、などが初発症状となることもあります。レイノー症状に加えてこれらの症状がある場合には強皮症専門医を受診して、検査を受けて方がよいでしょう。


全身性強皮症はどのように診断されますか?

全身性強皮症の診断で最も重要な症状は皮膚の硬化ですから、病気が進行して皮膚がはっきりと硬くなった患者さんを全身性強皮症と診断することはそれほど難しくはありません。しかし、症状がまだはっきりとでていない患者さんや、症状の軽い患者さんでは、診断がしばしば困難となります。実際に患者さんがいろいろな医療機関を受診しても、軽い症状がしばしば見落とされ、強皮症と診断されず、発症してから何年も経ってから、ようやく診断されることもめずらしくはありません。強皮症をはじめとする膠原病は多臓器疾患ですから、患者さんが初めて受診する可能性のある科が多いのですが、逆に膠原病の専門家や膠原病科というものが少ないことが診断の遅れる大きな理由と思います。 さて、強皮症の診断は、問診、診察、そしていろいろな検査を総合して行われるということをまず憶えて下さい。問診の時には病気とは関係ないように思えることでも率直に話すようにして下さい。診察では皮膚硬化だけではなく、いろいろな皮膚、関節などの変化が調べられます。強皮症は内臓病変をしばしば伴いますが、内臓の変化は外からではわかりませんから、いろいろな検査を行い、これらを総合して診断されます。 強皮症という病気は、患者さんごとに、病気の重さが異なり、比較的軽い患者さんから典型的な強皮症の患者さんまで様々であることが分かってきました。さらに、患者さんによって合併する内臓病変も違うことが分かっています。大切なことは、ただ強皮症と診断すればそれでよいというのではなく、1)強皮症のなかでも軽いタイプなのか、あるいは典型的なタイプなのか、2)どの内臓に変化が、どの程度あるのか、という点をはっきりさせることです。このことはその後の治療方針や病気がこれからどうなっていくかを予想する上でも重要なことです。 強皮症の診断の重要なより所となるのが診断基準と呼ばれているものです。強皮症の診断に関しては、さまざまな診断基準が提唱されています。表1〜3に主なものを示しました。国際的に最も良く用いられているのがアメリカリウマチ協会の診断基準です。わが国でも厚生省強皮症調査研究班(石川英一班長)により作られたものが比較的よく用いられています。これはアメリカリウマチ協会のものに、舌小体短縮を加えたものです。また、最近では別の厚生省強皮症調査研究班(森俊二班長)によって作成されたものもあります。これら診断基準は典型的な強皮症を診断する上では有用ですが、発症して間もない場合、症状が軽い場合には強皮症と診断できないことがあります。これに対して、尹、竹原らは新たなポイント診断法を作りました。この診断法の特徴は5項目(皮膚硬化、肺線維症、抗核抗体、レイノー現象、爪上皮出血点)のそれぞれに点数を付け、5項目の合計点で強皮症としての疑わしさを評価しようとしたことです。強皮症とすでに診断がついている人は9点以上、将来強皮症へ進行する可能性が高いと考えられる強皮症予備軍の人は5〜8点、一応強皮症を疑ってみたものの、その可能性の低い人や、他の膠原病の診断のついている人では4点以下と、スコアによって上手く評価できます。ただし、これらの診断基準は絶対的なものではないことに注意して下さい。診断基準に当てはまらないからといって、強皮症を否定してしまうことはできません。診断基準については、竹原和彦著「強皮症、膠原病、正しい知識と治療のポイント」(診療新社)に詳しく述べられていますので、さらに知りたい方は参照して下さい。


全身性強皮症を診断するための検査は?

皮膚硬化のはっきりしない発症間もない患者さんや、症状の軽い患者さんでは、皮膚硬化の有無を確認するため、皮膚生検が重要な検査となります。この検査は皮膚の一部を切り取って、顕微鏡を用いて判断するものです。局所麻酔をかけて行いますので、痛みはほとんどありません。皮膚硬化がはっきりしている患者さんでも、どの程度皮膚硬化が進行しているかを判断する上で、皮膚生検は不可欠です。 一般血液検査のなかで、最も重要な検査は抗核抗体の検査です(後で詳しく述べます)。強皮症の患者さんでは90%以上で抗核抗体が陽性となります。抗核抗体のうち、特に抗セントロメア抗体、抗トポイソメラーゼ I抗体、抗RNAポリメラーゼ抗体、抗U1RNP抗体などが強皮症の患者さんで陽性になります。これらの抗核抗体は健康な人ではほとんど陽性になりませんので、強皮症と診断するためには非常に有用です。 後述する内臓の変化を調べる様々な検査も、強皮症と診断するために不可欠の検査です。

全身性強皮症はどのような病型に分類されますか? 

強皮症の分類には従来、オーストラリアの内科医であるバーネットによる分類がわが国ではよく用いられていました。この分類は皮膚硬化の範囲だけで強皮症を1型(皮膚硬化が手指に限局)、2型(皮膚硬化が四肢や顔面にも及ぶが、躯幹には及ばない)、3型(皮膚硬化が躯幹にも及ぶ)に分類するものです。しかし、いろいろな抗核抗体の発見など強皮症の研究が進んだ結果、皮膚硬化だけによるバーネット分類はあまり使われなくなり、代わりに1988年にアメリカの内科医であるルロイとメズガーらによる分類が国際的にもよく使われるようになりました。表5にこの分類の要点をまとめました。この分類では皮膚硬化の範囲のみならず、抗核抗体の種類、内臓病変の種類、レイノー現象の出現時期など様々な因子を加味して分類されているのが特徴です。これによると、全身性強皮症は1)症状が比較的軽い、限局型全身性強皮症と2)強皮症として典型的な、びまん型全身性強皮症に分類されます。念のためにいっておきますが、「限局型(limited)全身性強皮症」は「限局性(localized)強皮症」とは同じ「限局」という言葉を用いてはいますが、全く異なる病気ですので、混同しないように注意して下さい。

全身性強皮症は進行性ですか?

以前は、全身性強皮症のことを進行性全身性硬化症と呼んでいました。強皮症について多くの研究が積み重ねられた結果、全身性強皮症には、症状が比較的軽く、ほとんど進行しない患者さんも数多くいることが分かってきました。そのため、「進行性」という不適切な言葉が入った診断名である進行性全身性硬化症は使われなくなってきました。しかし、今でも患者さんの中には、強皮症という診断名を聞いただけで、どんどん進行していくというイメージをもたれて、悲観的になっていらっしゃる人もいます。でも、強皮症は必ずしも進行性ではなく、患者さんによってその経過はさまざまであることをよく憶えておいて下さい。

一般に全身性強皮症はどのような経過をとりますか?

全身性強皮症の経過を理解するためには、もう一度ルロイとメズガーらによる分類を思い出していただく必要があります。この分類によると、全身性強皮症は1)症状が比較的軽い、限局型全身性強皮症と2)強皮症として典型的な、びまん型全身性強皮症に分類されます。この2つの病型で強皮症の経過が大きく異なります。 限局型全身性強皮症では皮膚硬化は進行するにしても、十数年から数十年にわたってごくわずかずつ、徐々にしか進行しません。最終的には皮膚の硬化もせいぜい前腕までの限局した硬化にとどまります。内臓病変も逆流性食道炎がみられますが、一般的には重篤なものはまれです。 これに対して、びまん型全身性強皮症の場合は、発症してから数年は皮膚硬化が進行しますが、ある時点でピークに達した後は、徐々に皮膚硬化が改善してきます。びまん型全身性強皮症では内臓病変を合併することが多いのですが、多くは発症してから数年に明らかとなります。 他の膠原病、例えば全身性エリテマトーデスや皮膚筋炎の場合は、病気が悪くなる時期と、病気が軽快する時期が繰り返しでてくることがあります。つまり病気のピークが一旦下がっても(一旦病気がよくなっても)、再びピークがあらわれる(悪化する)ことがあるのです。しかし、強皮症では一般的に病気のピークは1回だけです。ですから、びまん型全身性強皮症の患者さんでは、発症後数年の間に上手く治療して、なるべく皮膚硬化を進行させずに、病気のピークを乗り切ることが大切です。上に述べた自然経過は、典型的な患者さんのたどるもので、強皮症の経過は患者さんによって違うことに注意して下さい。

前もってどのような経過をたどるかわかるのですか?

何度も繰り返しますが、全身性強皮症の経過は患者さんごとに異なりますので、それぞれの患者さんが将来どのような経過をたどるかを正確に判断することは困難です。しかし、おおよその経過を予測することは可能です。経過を予想する上で一番役にたつ検査は、抗核抗体の種類です(後で詳しく述べます)。ルロイとメズガーらの分類よる、症状が比較的軽い、限局型全身性強皮症では抗セントロメア抗体が陽性になることが多く、強皮症として典型的な、びまん型全身性強皮症では抗トポイソメラーゼ I抗体が陽性になることが多いのです。従って、抗セントロメア抗体陽性の患者さんでは、経過はゆっくりであり、一方、抗トポイソメラーゼ I抗体陽性の患者さんでは、典型的な強皮症の経過をとることが多いようです。

全身性強皮症にはどのような内臓病変がみられますか?

全身性強皮症は多臓器疾患ですから、いろいろな内臓病変がおこります。内臓別に説明しましょう。まず、逆流性食道炎ですが、これは食道が硬くなって、動きが悪くなった結果、胃酸が食道に逆流して生じるもので、胸やけ、胸のつかえる感じ、逆流感が主症状です。逆流性食道炎は、強皮症の代表的な内臓病変の一つで、典型的な強皮症患者さんだけでなく、皮膚硬化が比較的軽い人にも多くみられる内臓病変です。 肺では、肺線維症が代表的な病変です。これは肺が、皮膚と同じように硬くなったもので、肺の下の方に生じます。肺線維症は比較的典型的な強皮症患者さんに多くみられる症状です。肺にはこれ以外に、肺の血管の血圧が高くなる肺高血圧症がみられることがあります。心臓についてですが、肺線維症や肺高血圧症がひどくなると心臓の働きが弱くなることがあります(心不全)。また、心筋が硬くなって、心臓の信号を送る伝導系に異常が生じて不整脈がおこることもあります。 肝臓では、胆汁が流れる管が硬くなって、原発性胆汁性肝硬変と呼ばれる変化がおこることがあり、これは、比較的症状の軽い強皮症患者さんに時にみられます。原発性胆汁性肝硬変と名前は立派で、恐ろしそうですが、特に自覚症状もなく、検査値の異常だけで、治療を必要とすることもあまりありません ので、不必要に心配しないで下さい。 また、腸が硬くなって、動きが悪くなると、便秘や下痢を繰り返したりします。わが国ではまれですが、腎臓の血管が硬くなった結果、突然、高血圧になり、頭痛、めまいなどがおこることがあります。これは強皮症腎と呼ばれています。強皮症でも、関節や筋肉に炎症がおこることがあります。まれですが、心臓や肺の外側を覆っている心膜や胸膜に炎症がおこることもあります(心膜炎、胸膜炎)。

全身性強皮症と診断された場合にはどのような内臓病変の検査が必要ですか?

逆流性食道炎は、バリウムを使った上部消化管透視、食道内圧測定、内視鏡などで診断します。肺線維症は通常胸部レントゲン写真で診断しますが、変化の軽いものをみつけるためにはCT(体を輪切りにしてみることのできるレントゲン写真)が必要となります。また、呼吸機能検査(肺活量などを測定する検査)も合わせて行われます。さらに、動脈から血液をとって、血液中の酸素含有量を測定します。肺高血圧症には心ドップラー・エコー法(超音波を使って体の外から肺の血圧を測定する検査)、心カテーテル法(肺の血管の中に、実際にカテーテルという管を入れて肺の血圧を直接測定する検査)が有用です。心臓の合併症に対しては、心電図、心ドップラー・エコー法(心臓の動きを超音波を用いて、体の外から測定する検査)、ホルター心電図(一日中携帯型の心電図をつけて、心臓の一過性の異常をみつけだす検査)などが行われます。肝臓の病変には、血液中肝酵素の測定、腹部超音波エコー法(超音波で体の外から肝臓の中を検査する)が行われます。腎病変には、尿検査、血圧測定、血清中のレニン活性、腎機能検査などが行われます。筋炎に対しては、筋電図(筋肉に針をさして、筋肉の中の電流の流れを測定する)、筋生検(筋肉の一部を切り取って、顕微鏡で検査する)が施行されます。 このようにたくさんの検査をかくと、痛そうでしりごみしたくなる患者さんもいるかもしれません。しかし、最近の検査技術の進歩で、痛みの伴わない検査が数多く開発されてきました。検査は強皮症の診断、治療に欠かせないもので、患者さんのためにするものですから、恐がらずに積極的に受けるようにして下さい。

全身性強皮症と誤診されやすい病気

1. 慢性関節リウマチ 全身性強皮症では数十%で、リウマチ反応が陽性となります。また、強皮症では関節炎、関節痛を合併することがあります。リウマチ反応陽性と関節炎の存在から、慢性関節リウマチと誤って診断されることがあります。この時、強皮症の関節炎では、慢性関節リウマチのように関節の変形はおこらないことが区別するポイントです。

2. 限局性強皮症 体に丸い皮膚硬化や、線状の皮膚硬化を生じる病気です。全身性強皮症と病名が似ており、また、抗核抗体をはじめとする血液の異常がしばしば陽性となることから、全身性強皮症とよく混同されます。しかし、限局性強皮症では、レイノー現象がなく、内臓病変も合併せず、手指の硬化もないことから容易に区別できます。

3. 好酸球性筋膜炎 激しい運動をきっかけにして、腕や下腿の皮膚硬化を生じる病気ですが、これも手指の硬化がないことから容易に区別できます。

4. ウェルナー症候群 ウェルナー症候群では、強皮症と同じように、四肢に皮膚硬化がみられます。ウェルナー症候群は老化が早くおこってくる病気で、若いのに顔つきが老人のようになり、背も低く、白髪や脱毛がおこり、しわがれ声になり、強皮症とは区別できます。

5. 成年性浮腫性硬化症 首の後ろ、肩、上背にむくんだような皮膚硬化がみられる病気ですが、手指の硬化がみられないことから簡単に区別できます。全身性強皮症と血液検査


抗核抗体とは?

抗核抗体とは自己抗体の一種です。では自己抗体とは何でしょうか?例えば、ウイルスに感染して風邪になった場合を想像して下さい。この場合、人間の体はウイルスを「自己ではない異物」と判断し、ウイルスに対する抗体が作られ、これがウイルスを殺し、やがて風邪は治ります。ウイルスに対する抗体とは人間の体の中で発射されるウイルスに対するミサイルと思って下さい。風邪をひいた場合、人間の体は自分の体に対しては抗体、つまり、ミサイルを発射することはありません。これは自分の体を「自己」と判断しているからです。もし自分の体を「自己」と判断せず、「自己ではない異物」と判断した場合はどうなるでしょうか?この場合、抗体、つまりミサイルは自分の体に向けて発射されます。その結果、自分で自分の体を壊す結果となり、病気がおこります。これを「自己免疫疾患」と呼びます。強皮症も「自己免疫疾患」に入ります。 自己抗体の中でも、細胞の「核」という部分に対する抗体を抗核抗体と呼びます。「核」は遺伝子が働く重要な場所です。全身性強皮症では抗核抗体はその90%以上の患者さんで陽性となります。抗核抗体は健康な人でも数%陽性となりますが、一般的に弱くしか陽性になりません。また、抗核抗体にはいろいろな種類があることが分かっています。全身性強皮症で陽性となる抗核抗体を表6にまとめました。

抗核抗体からどのようなことがわかりますか?

全身性強皮症では抗核抗体は、強皮症の病型、特定の内臓病変、病気の進行と関連が深いため、病気の進行などを予測する上で非常に大切な情報となります。表6で示した全身性強皮症で陽性となる抗核抗体のうち、特に大切なものについて以下にまとめてみます。

1. 抗セントロメア抗体 細胞の核にある染色体は2本で1対になっています。この2本の染色体はちょうどその真ん中でお互いつながっています。このつなぎ目の部分がセントロメアと呼ばれます。この抗体は強皮症の約30%に陽性となります。この抗体はルロイとメズガーらによる分類の、症状が比較的軽い、限局型全身性強皮症に陽性となることの多い抗体です。この抗体を持っている強皮症の患者さんの特徴を以下にまとめます。1)皮膚硬化の範囲、程度が軽い。2)肺線維症を合併することはまれ。3)症状の進行が非常にゆっくりである。4)皮膚硬化がはっきりとするまで、レイノー症状が長期に(通常10年以上)先行する。5)石灰沈着、血管拡張などの症状を伴いやすい。

2. 抗トポイソメラーゼ I抗体 トポイソメラーゼ Iとは、二重らせん構造をとっているDNAがねじれた場合に、そのねじれを元に戻す働きを持っている重要な酵素です。抗トポイソメラーゼ I抗体は、以前は抗Scl-70抗体、抗強皮症抗体と呼ばれていました。強皮症の患者さんでは約40%にこの抗体が陽性となります。ルロイとメズガーらによる分類の、強皮症として典型的な、びまん型全身性強皮症で高率に陽性となります。従って、この抗体を持っている患者さんはほぼ間違いなく強皮症と診断されます。この抗体は、比較的広い範囲に及ぶ皮膚硬化や肺線維症と関連があります。この抗体が陽性の場合、肺線維症は80%で認められます。

3. 抗RNAポリメラーゼ抗体 最近新しく発見された抗核抗体で、わが国では約5%の強皮症の患者さんで検出されます。この抗体を持っている患者さんでは、比較的広い範囲に及ぶ皮膚硬化があり、肺線維症が少ない代わりに、腎臓や心臓の合併症が多いといわれています。

4. 抗U1RNP抗体 抗U1RNP抗体は混合性結合組織病の患者さんで高率に陽性になる抗核抗体ですが、全身性強皮症の患者さんでも陽性となります。この抗体を持っている強皮症患者さんでは、手や指にむくみを伴った皮膚硬化がでるのが特徴です。また、関節炎などの炎症症状や血液検査で炎症所見を伴いやすいことが知られています。

抗核抗体の数字の変動からどのようなことが分かりますか?

全身性強皮症で陽性となる抗核抗体の値は、病気の経過や治療によってほとんど変化せず、ほぼ一定の値で陽性が続きます。ですから、抗核抗体の値が陽性であるからといって、治療効果がないとか、病気が良くなっていないと考えるのは誤りです。強皮症の場合、抗核抗体は病気の診断や、進行を予測する上で重要な検査なのです。この他に強皮症の抗核抗体には次のような特徴があることを憶えておいて下さい。1)強皮症に特徴的な抗核抗体は、通常一人の患者さんでは、一種類だけが陽性となり、同時に二種類以上の抗核抗体が陽性になることは少ない。2)抗核抗体は病気の早期より陽性となり、経過中に突然、それまで陰性であったものが陽性となったり、逆に陽性であったものが陰性になったりすることはほとんどない。3)経過中、一人の強皮症の患者さんで抗核抗体の種類が変わることはほとんどない。

血液検査で病気の重さや活動性が分かりますか?

残念ながら、病気の重さや活動性を示すよい血液検査はありません。強皮症の場合、病気の重さや活動性は血液検査、各種検査、診察などを総合して判定します。しかし、参考となる血液検査はあります。先ず病気の重さですが、これは抗核抗体の種類と関連性が高いため、抗核抗体の種類を調べることによっておおよそ予測できます。つまり、抗セントロメア抗体が陽性である患者さんは、比較的症状の軽い強皮症であることが多く、また、抗トポイソメラーゼ I抗体陽性の患者さんでは、典型的な強皮症の症状を示します。 病気の活動性については、例えば、強皮症腎を合併した時には、血清レニン活性、血液中のクレアチニン値、BUNが上昇します。また、抗U1RNP抗体をもっている強皮症患者さんではESR、CRPなどの炎症所見および免疫グロブリン値が活動性を反映することがあります。さらに、これらはステロイド内服によって低下するので治療効果をみる上でも有用です。しかし、一般的に病気の活動性を示す良い検査はありません。


血液検査で他に大切なものがありますか?

強皮症の重さや活動性を示す良い血液検査はありませんが、だからといって、血液検査が不必要なわけではありません。以下にまとめた項目をチェックするためにも、定期的な血液検査は不可欠です。進んで受けるようにしましょう。

1. 赤血球数、ヘモグロビン値 強皮症の患者さんでは、鉄の吸収が低下するため、鉄が足りなくなり貧血をしばしばおこします。赤血球は肺で空気中の酸素を取り込み、体全体に運搬する、いわば酸素運搬人です。鉄がないと赤血球をつくれません。ですから、鉄が足りなくなると、赤血球の数が減って、体中に酸素を充分運搬できなくなります。これが貧血と呼ばれるもので、立ちくらみなどがおこります。この時はもちろん血液中の鉄の量も減っています。お薬によっては、副作用で造血障害をおこすものがあり、その場合白血球、赤血球、血小板の数が減少します。

2.血小板 血小板は血液の中を流れている細胞の1つです。けがなどで皮膚に傷ができると出血しますが、血小板はこの傷をセメントのように埋めてふさぎ、出血を止める働きがあります。血小板の数が減ると、傷がなくても皮下出血したりします。強皮症では全身性エリテマトーデスを合併すると、血小板の数が少なくなることがあります。

3. 肝酵素 GOT、GPTが代表的なものです。これらは肝臓の細胞の中にある酵素で、肝臓の細胞が壊れると、血液中にでてきます。強皮症の患者さんではどうしても多くのお薬を飲まないといけませんが、お薬の多くは肝臓で壊されます。時に患者さんによっては、お薬が肝臓の細胞を障害し、肝酵素が上昇してきます。このようなお薬の副作用がでてきたら、直ぐにそのお薬を中止しないといけないので、肝酵素を定期的に調べることはとても重要なのです。 患者さんによっては、肝臓の中の胆汁が流れる管(胆管)が硬くなって、原発性胆汁性肝硬変と呼ばれる変化がおこることがあります。この場合、胆管系酵素と呼ばれるγ-GTPやLAPが上昇してきます。また、抗ミトコンドリア抗体と呼ばれる自己抗体が陽性となることもあります。

4. 腎機能 腎機能はBUNやクレアチニン値で評価します。腎臓は体の中で不要となった老廃物を尿の中に捨てる臓器です。クレアチニンは体内で作られる老廃物で、腎臓から尿中に捨てられます。腎機能が悪化すると、体内にクレアチニンが蓄積し、血中のクレアチニン値が上昇します。血液尿素窒素(BUN)も血液中の老廃物である尿素を測定するもので、クレアチニンとほぼ同様な意味をもっています。これらの値は強皮症腎がおこったときには上昇します。また、お薬の副作用で腎臓が障害されたときにも上昇します。

5. 筋系酵素 CPK、アルドラーゼ、LDHは筋肉の中にあり、筋肉が炎症などで壊れると血液中に上昇するため、筋原性酵素と呼ばれています。LDHは筋肉の他に、肺、皮膚、心臓、肝臓にもありますので、これらの内臓が障害された時にも上昇します。特に間質性肺炎で肺が障害されたときにLDHの値が高くなります。強皮症では筋炎を合併したときに上昇してきます。

6. 免疫グロブリン 強皮症では、IgG、IgM、IgAといった免疫グロブリンがしばしば上昇します。免疫グロブリンは体の中では抗体として働きます。一般的に、抗体は体の中に侵入してきた細菌などの異物を殺すために、体の中で発射されたミサイルです。強皮症では細菌感染がなくても、どういうわけかミサイルが多く発射されているのです。免疫グロブリンが高いからといって、通常は特別な治療は必要ありません。しかし、患者さんによっては、特に抗U1RNP抗体を持っている患者さんでは、免疫グロブリンの値が病気の勢いをあらわすことがあり、治療効果の参考にすることがあります。

7. リウマチ反応 全身性強皮症では数十%で、リウマチ反応が陽性となります。強い関節炎を伴っている場合は、関節リウマチの合併も考慮して、さらに検査することもありますが、リウマチ反応が陽性だからといって、必ずしも関節リウマチの合併を考える必要はありません。

8.補体(C3、C4、CH50) 補体とは、免疫グロブリンが病原体と結合した後、その免疫グロブリンと結合して病原体を殺菌する働きがあります。免疫グロブリンが病原体に対して発射されたミサイルだとすると、補体はミサイルの爆弾にたとえられます。膠原病では感染がないのに、自分の体に対してミサイルが多く発射されてしまうのですが、このときその爆弾である補体が使われるので、血液中の補体の量が減少します。従って、補体が低下するということは体の中でミサイルが撃たれて、爆発している状態が起こっていることを示しています。膠原病、特に全身性エリテマトーデスでは病気の勢いの強いときに、補体が減少します。強皮症でも全身性エリテマトーデスを合併したときには低下します。補体には約20種類ありますが、そのうち重要なものはC3とC4です。CH50はたくさんある補体の量の総和と考えて下さい。

9.免疫複合体 抗原と抗体が結合してできたものが免疫複合体です。抗体が病原体に対するミサイルですから、抗原はそのミサイルが向けられた目標です。通常は抗原は細菌などの病原体ですが、膠原病の場合は自分の体の一部であることもあります。この免疫複合体が腎臓などの内臓に付着すると、補体が結合して、その内臓を障害します。強皮症でも陽性となることがあります。

10.KL-6、SP-D 間質性肺炎の診断やその勢いを表す血液中の指標で、最近測定されるようになりました。膠原病では強皮症で間質性肺炎があると上昇します。特に、強皮症では間質性肺炎の症状が重い患者さんほど、KL-6の値が高くなります。また、間質性肺炎の活動性が高く、治療が必要な場合にはSP-Dが高くなります。

11.血液ガス分析 血液中には酸素や二酸化炭素が溶けています。血液に溶けている酸素の量が低下すると、息苦しさ、呼吸困難といった症状が出現してきます。強皮症に伴う間質性肺炎があると、肺の機能が低下し、肺から酸素が十分に摂取できなくなり、その結果血液中の酸素の量が低下します。この検査は動脈から血液を採りますので、通常の静脈の採血より少し痛みが強いですが、間質性肺炎の程度、進行具合を調べる重要な検査ですので、進んで受けて下さい。

強皮症専門用語の解説

線維化(硬化)

全身性強皮症では皮膚や内臓に膠原線維(コラーゲン)などの細胞外基質と呼ばれる物質が増加し、その結果、皮膚や内臓が硬くなります。この現象を「線維化」あるいは「硬化」といいます。膠原線維などの細胞外基質は、細胞の外にあって、細胞同士をくっつけたり、細胞の間のすきまをうめる、いわばセメントのような物質であり、全身性強皮症では活性化した線維芽細胞が、必要以上に大量の膠原線維を作ってしまう結果、線維化がおこると考えられています。

皮膚硬化

皮膚硬化とは皮膚に線維化が生じたものです。最初は指のこわばり、むくんだ感じからはじまります。今まで入っていた指輪が入らなくなることで気づく人もいます。皮膚の硬化は指先から生じ、手背、前腕、上腕、躯幹と順番に体の中心部へ進行することもあります。従って、例えば躯幹や上腕に皮膚硬化があるのに、指には皮膚硬化がないということは全身性強皮症では起こりません。また、皮膚の硬化は通常発症5~6年以内には進行することもありますが、それ以降は「萎縮期」といって、今度は徐々に皮膚硬化が改善します。ですから、最初の数年以内にできるだけ皮膚硬化を進行させないようにしっかり治療する必要があります。進行している皮膚硬化に対しては、ステロイドの少量内服が有効です

全身性強皮症に伴う肺線維症

肺線維症とは肺に線維化が生じるもので、全身性強皮症では肺の下の方から起こります。進行すれば胸部レントゲンでもわかりますが、わずかな病変や早期の病変は胸部CTをとらないとわかりません。これらの検査に加えて、肺の機能を調べる呼吸機能検査や、実際肺にどのような炎症が起こっているかを直接調べる気管支肺胞洗浄液などの検査も必要です。これらの検査は肺線維症があるのか、ないのか、というだけではなく、どの程度あるのか、さらに今進行しているのかを調べるために必要です。今進行している肺線維症に対しては最近シクロホスファミドという薬剤が有効である可能性が示されています。

逆流性食道炎

食道の下部の筋肉に線維化が起こり、胃酸が食道に逆流することによって生じます。最も多い症状は胸焼けです。また、食道の動きが悪くなるため、胸のつかえも生じます。これらの症状はプロトンポンプ阻害剤という治療薬でかなり改善されることがわかってきました。また、食事は一度にたくさん食べず、少量を一日4~5回に分けて食べる、食べた後は横にならないなどの注意も必要です。

強皮症腎クリーゼ

腎臓の血管に線維化が起こり、高血圧を生じるもので、20年前までは重篤な合併症でしたが、ACE阻害薬という高血圧のお薬によって、十分に治療しうるものとなりました。しかし治療が遅れると腎臓の機能が悪化して、透析が必要となりますので、今でも早く発見して、早く治療することが極めて重要です。全身性強皮症の患者さんは毎日きちんと血圧を測定して、血圧が上がってくるときには直ぐに主治医の先生に相談するようにして下さい。強皮症腎クリーゼは他の全身性強皮症の合併症と異なり、急に発症することが特徴ですので、充分な注意が必要です。

指尖部虫喰状瘢痕

指先に小さい傷痕ができる症状です。全身性強皮症では血管が壊れやすいため生じると考えられています。冬など寒い季節などで、悪化すると指先の潰瘍となってしまうこともありますので、指先をぶつけたりしないように注意し、保温を心がけるようにして下さい。潰瘍ができた場合には、自分で処置しないで、直ぐに主治医に相談して下さい。

レイノー症状

全身性強皮症の初発症状として最も多い症状です。冷たいものに触れたりすると、指先が最初白くなって、次に紫色になり、暖めると赤くなって元に戻る症状です。痛みやしびれを伴うこともあります。保温が大切です。

抗核抗体

抗核抗体とは自己抗体の一種です。では自己抗体とは何でしょうか?例えば、ウイルスに感染して風邪になった場合、人間の体はウイルスを「自己ではない異物」と判断し、ウイルスに対する抗体が作られ、これがウイルスを殺し、やがて風邪は治ります。ウイルスに対する抗体とは人間の体の中で発射されるウイルスに対するミサイルのようなものと思って下さい。風邪をひいた場合、人間の体は自分の体に対しては抗体、つまり、ミサイルを発射することはありません。これは自分の体を「自己」と判断しているからです。もし自分の体を「自己」と判断せず、「自己ではない異物」と判断した場合はどうなるでしょうか?この場合、抗体、つまりミサイルは自分の体に向けて発射されます。その結果、自分で自分の体を壊す結果となり、病気がおこります。自己抗体の中でも、細胞の「核」という部分に対する抗体を抗核抗体と呼びます。「核」は遺伝子が働く重要な場所です。全身性強皮症では抗核抗体はその90%以上の患者さんで陽性となり、病型、特定の内臓病変、病気の進行と関連が深いため、病気の進行などを予測する上で非常に大切な情報となります。

抗セントロメア抗体

細胞の核にある染色体は2本で1対になっています。この2本の染色体はちょうどその真ん中でお互いつながっています。このつなぎ目の部分がセントロメアと呼ばれます。この抗体は全身性強皮症の約30%に陽性となります。この抗体は、症状が比較的軽い全身性強皮症に陽性となることが特徴です。この抗体を持っている患者さんでは、1)皮膚硬化の範囲、程度が軽い。2)肺線維症を合併することはまれ。3)症状の進行が非常にゆっくりである。4)皮膚硬化がはっきりとするまで、レイノー症状が長期に(通常10年以上)先行する。5)石灰沈着、血管拡張などの症状を伴いやすい、ことが知られています。

抗トポイソメラーゼ I抗体

トポイソメラーゼ Iとは、二重らせん構造をとっているDNAがねじれた場合に、そのねじれを元に戻す働きを持っている重要な酵素です。抗トポイソメラーゼ I抗体は、以前は抗Scl-70抗体と呼ばれていました。全身性強皮症では約40%にこの抗体が陽性となります。比較的典型的な全身性強皮症で高率に陽性となります。従って、この抗体を持っている患者さんはほぼ間違いなく全身性強皮症と診断されます。この抗体は、比較的広い範囲に及ぶ皮膚硬化や肺線維症と関連があります。この抗体が陽性の場合、肺線維症は約80%で認められます。

抗RNAポリメラーゼ抗体

最近新しく発見された抗核抗体で、わが国では約5%の全身性強皮症で検出されます。この抗体を持っている患者さんでは、比較的広い範囲に及ぶ皮膚硬化がありますが、肺線維症が少なく、治療によって皮膚の硬化も改善しやいようです。

抗U1RNP抗体

抗U1RNP抗体は混合性結合組織病で高率に陽性になる抗核抗体ですが、全身性強皮症でも陽性となります。この抗体を持っている全身性強皮症患者さんでは、手や指にむくみを伴った皮膚硬化がでるのが特徴です。また、関節炎などの炎症症状や血液検査で炎症所見を伴いやすいことが知られています。

限局性強皮症

限局性強皮症は全身性強皮症と名前は似ていますが、全く異なる病気です。全身性強皮症の皮膚の硬化は両手の指から始まって、左右対称性に徐々に体に広がりますが、限局性強皮症では手の指の硬化はなく、体のあちこちに、左右非対称性にあざのような硬くなった皮膚の変化がでてきます。また、全身性強皮症と違って、いわゆる膠原病ではありません。全身性強皮症と異なり、内臓を全く侵さず、生命に関わらない全く良性の疾患です。つまり、心配のない皮膚だけの病気です。限局性強皮症が全身性強皮症に移行する可能性はほとんどありません。両者は全く別の病気です。

強皮症診断のための自己チェックリスト

自分の症状をチェックしてみましょう

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